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福島県   
圓朝地名図譜
 昔ですけれども、あの安達ヶ原へまことに悪い狐が出まして、なにが悪いてえと、男が通ると陰嚢を蹴る、睾丸を。
  (三遊亭小圓朝(3) 「九郎蔵狐」)
  東大落語会編,『三遊亭小圓朝集』,青蛙房 (1969) 

地点名 この1題・登場回数 位 置 備 考 写真と撮影年  
相馬 そうま 怪談小夜衣(大川屋書店 (1916))など 相馬市 相馬地方を指しているように読める.甲冑をつけた騎馬が練り歩き,神旗を奪い合う相馬野馬追で有名.相馬藩の城下である相馬中村神社などの祭礼で,行ってみたら白馬が飼われていた.相馬と言えば,将門が祖先.町にも繋ぎ馬と九曜紋が飾られている.
"二本松を出立し磐城相馬と巡りました"(怪談小夜衣)
相馬中村神社神馬像 2015
福島原発 ふくしまげんぱつ 七八一九(柳家小満ん口演用「てきすと」 24, てきすとの会 (2017)) 双葉郡大熊町 東京電力福島第一原子力発電所.東日本大震災後のマクラ.いわきから相馬にかけて,浜通りの落語地名は,全くない.それだけ原発立地に適していたのだろう.2011年の事故で放射性物質が県外にまで広く汚染した.現在は,一般の人も敷地内の見学ができるとのこと.写真は,三春町にある復興展示施設の事故時の原発模型.建屋が吹っ飛んでいる様子が再現されている.
"大地震、大津波という事で、福島原発の大事故もあって、日本中が未だに大揺れといった感じでございます"(七八一九)
福島第一原発(模型) 2019
たいら 戸田の渡し(お紺殺し)(三一正蔵芝居噺:02) 1件1題 (東京1件) いわき市平 城下町の平(たいら).今は町の名,駅名ともにいわきに改まってしまった.平城跡は丹後沢の堀割を残すのみ.
"平の藩中の山田三四郎という人(中略)後を付けてって墓場でもって斬り殺しやがって金取りやァがったねぇ"(戸田の渡し)
平城址丹後沢 1999
磐城湯本 いわきゆもと 庖丁(集英圓生1:07) 1件1題 (東京1件) いわき市常磐湯本町あたり 磐城湯本温泉.延喜式に記された温泉神社.近くに湯本の古名のさはこの湯碑がある.常磐炭鉱廃山の危機を,豊富な温泉水を利用した夢のハワイづくりで乗りこえた常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)のことも忘れるわけにはいかない.
"とうとう二十歳の年に家を飛び出し磐城の湯本へまいりました"(庖丁)
磐城湯本温泉神社 1999
白河 しらかわ うそつき弥次郎(講明治大正6:29) など 3件3題 (圓朝1件, 東京2件) 白河市 白河は,弥次郎こと山伏安珍の出身地.道理でホラを吹き通し.朝寝朝酒朝湯が大好きで♪の小原庄助さんも白河市内の皇徳寺に眠る.徳利と盃の組み合わせで,辞世の句は,朝によし昼なおよし晩によし飯前飯後その間もよし.実は会津塗師久五郎の墓.安政5年没.
"お前はお武士かい。ナニ白川の安珍という山伏で"(うそつき弥次郎)
小原庄助墓 2020
白河:古関 こせき 小雀観音堂の由来(娯楽世界, 13(12) (1925)) 白河市関辺 「小雀観音堂の由来」は「正直安兵衛観音経」と同じ話.江戸に持参した大事な金をすられ,身投げしようとしたところを泥棒(小鼠吉五郎などの名)に助けられる.お仕置きになるはずの泥棒の墓を自宅につくり,毎日観音経を唱えていると,ある日,処刑されずに出家した泥棒と再会を果たす.この田舎者の出身地が,白河在の小菅村だったり,古関村の小雀だったりする.古関だけは,白河の関の近くに実在する地名だが,小雀観音堂は架空.国鉄白棚線跡を引き継いだバス専用道に,旧古関駅(古関バス停)がある.
"私は奥州白河在古関村の百姓安兵衛と云ふ者"(小雀観音堂の由来)
古関バス停 2020
白川口 しらかわぐち 続噺柳糸筋(立名人名演01:05) 1件1題 (東京1件) 白河市 談洲楼燕枝の連載三題噺に,戊辰戦争の話題として登場.白川口は,若松城の白河方面の防御拠点で,戊辰戦争の激戦地.白河市街南方の松並には会津藩と長州藩大垣藩戦死墓が,道をはさんで向かいあう.
"白川口のいくさ敗れて詮方なく"(続噺柳糸筋)
戊辰戦争会津藩戦死墓 2005
三春 みはる 三味線栗毛(桃源圓歌:07) など 2件1題 (東京2件) 田村郡三春町あたり 酒井雅楽頭が乗るのが「三味線栗毛」.三春で産した馬の用例.三春駒の三春人形を作るデコ屋敷は郡山市西田町高柴あたり.三春の名は,梅桃桜がいちどきに咲くことからついたという.町にはシダレザクラが多く,特に樹齢千年といわれる滝桜は圧巻.
"お殿様、御馬を召されたそうでございますな。うゥん、三春南部の産だ。若駒じゃが、栗毛じゃ"(三味線栗毛)
三春滝桜 2018
熱海 あたみ 怪談小夜衣(大川屋書店 (1916)) 郡山市熱海町あたり 磐梯熱海温泉.駅前と五百川沿いにある温泉街.無色の単純泉.速記の土湯嶽は北方にあるが,その山すそというわけではない.熱海温泉碑は湯泉神社境内にある.剥落しかけたのが古碑の味わい.温泉の整備を顕彰して,文政2年に二本松領主が建てたもの.
"左内も妖物(ばけもの)もあきたから、土湯嶽の熱海村といふ近辺の温泉に入浴し"(怪談小夜衣)
熱海温泉碑 2014
安積沼 あさかぬま 二つ面(青正蔵1:20) など 2件2題 (東京2件) 郡山市日和田町あたり 「二つ面」は,彦六の正蔵が演じた新作.噺家が主人公で,小幡小平次の芝居を取り入れている.芝居の方は,安積沼で釣りをしているところで口論となり,頭を割られ沼に突き落とされる小幡小平次.死んだと思った小平次が再び現れる.巨大な沼だったと言うが,芭蕉がはなかつみを探して安積山を歩いたころ,安積沼はすでになくなっていた.安積山は奥州街道に沿っており,道に張り出していた巨大な赤松は次第に数を減らしている.
"奥州安積沼におきまして太鼓打ち太九郎のために、非業の最後をとげました小幡小平次"(二つ面)
安積山 2020
安達太良山 あだたらやま 橋弁慶(柳家小満ん口演用「てきすと」 34, てきすとの会 (2019)) 福島市・二本松市・安達郡大玉村・郡山市・耶麻郡猪苗代町 "東京に空が無い"と言った高村光太郎「智恵子抄」の引き事.標高1700m."あれが阿多多羅山"と智恵子が指さしたのだが,単独峰でないので遠目にはどれだかわからない.小満ん師は実際に登ったというのに,私は新幹線やサービスエリアから見ただけ.
"この夏は福島の安達太良山へ登って参りまして"(橋弁慶)
安達太良山 2020
二本松 にほんまつ 武者修行(騒人名作08:07) など 6件2題 (東京6件) 二本松市 三代横綱丸山権太左衛門の出身地として登場.菊人形で有名.二本松藩戒石銘は藩主が寛延2(1749)年に藩士を戒めたもの.爾俸爾禄 民膏民脂 下民易虐 上天難欺.
"おれは奥州二本松の住人(中略)黒雲雷之助夏鳴入道雷呑と申す者だ"(武者修行)
二本松藩戒石銘碑 1999
二本松:代官町 だいかんちょう 怪談小夜衣(大川屋書店 (1916)) 二本松市郭内2 二本松領内を支配する代官屋敷が置かれたことによる.第一中学校脇の狭い坂道に石標が立っている.丹羽氏は領内を片平・郡山・大槻・本宮・糠沢・玉井・杉田・渋川・小浜・針道の10組に分けたと彫ってある.
"竹田御門をはいり、代官町といふ狭い小路の武家屋敷の両側に数軒あるところへ参りました"(怪談小夜衣)
旧代官丁町名碑 2016
安達ヶ原 あだちがはら 九郎蔵狐(青小圓朝:10) など 6件5題 (東京6件) 二本松市安達ヶ原あたり 奥州安達ヶ原といえば鬼婆伝説.二本松東部の阿武隈河畔.観世寺に鬼婆の岩屋,近くの松樹の下に謡跡の黒塚がある.「九郎蔵狐」では,安達ヶ原になぜか鬼ではなく,悪狐が出て人をだます.上方の「まんじゅうこわい」の馬の尻の穴をのぞくくだりと同じ話.
"安達ヶ原へまことに悪い狐が出まして、男が通ると陰嚢を蹴る"(九郎蔵狐)
安達ヶ原鬼婆岩屋 2015
黒塚 くろづか 怪談小夜衣(大川屋書店 (1916)) 二本松市安達ヶ原あたり 観世寺を阿武隈川河畔の方へいったところに,写真の塚がある.巨大な杉の根元に,黒塚と彫られた板碑,呪文のような平兼盛の歌碑,梵字の彫られた小さな石が置かれている.
"『陸奥の安達が原の黒塚に鬼こもれりと聞くはまことか』と某郷の詠まれたる黒塚の古跡"(怪談小夜衣)
黒塚 2020
川股 かわまた 官員小僧(中礼堂 (1890)) 伊達郡川俣町 川俣.土橋亭里う馬の「官員小僧」に登場.ここの名主を官員小僧が懲らしめるという,本文には語られないエピソード.幕府直轄で代官所が置かれていた.川俣を通るとコスキンの町と書かれた謎めいた南米風の人形が目立つ.アルゼンチンコスキン市にちなみ,フォルクローレの祭典が開かれるのだとか.東北本線から国鉄川俣線が通じていたが,廃線.
"福島の在の川股村の名主川股伝五右衛門と言ふ者がございまして"(官員小僧)
川俣代官所跡碑 2013
福島 ふくしま 高田の馬場(青金馬:10) など 11件6題 (圓朝1件, 東京10件) 福島市 「高田馬場」の兄妹が狙う敵の出身藩.原発事故により,フクシマの名は世界的に知られる地名になってしまった.福島城は現在,福島県庁などとなっており,南側に土塁が残っている.二の丸外庭の紅葉山公園には,藩祖の板倉神社や姿の美しい鎌倉期の宝塔がある.福島城築城以前の杉妻寺に遡る.
"仇とつけねらう者もあるまい。お聴きください。拙者壮年のおり、福島の藩にしてな"(高田の馬場)
福島城土塁 2012
飯坂 いいざか 一人酒盛(青圓生01:06) など 4件2題 (東京4件) 福島市飯坂町 無色無臭の飯坂温泉.鯖湖湯が古い湯場.落語では,"いいざけの温泉"ぐらいでしか使われない.写真は,最近とんと聞かない"聚楽ヨ〜".一方,西の有馬温泉では,AKB48が入浴する"有馬兵衛の向陽閣エ〜"のCMが作られている.
"あァいい酒だ、いい酒の温泉てえところがあるねェ"(一人酒盛)
飯坂温泉 1989
下郡 しもごおり 女中志願(金園新作:18) 1件1題 (東京1件) 伊達郡桑折町 "仙台白石下郡"という言い立て.下郡の近くの桑折(こおり)が交通の要衝で,旧伊達郡役所といった古い建築も残る.語呂で桑折でなく下郡としたのか.
"仙台だってば仙台(すんでえ)、白石(すらいし)、下郡(すもごおり)ィ"(女中志願)
下郡を望む 2000
吾妻山 あづまやま 果報の遊客(講明治大正2:55) など 4件4題 (東京4件) 耶麻郡猪苗代町,北塩原村,山形県米沢市 吾妻山は日本百名山の一つ.1893(明治26)年に大噴火した.この災害を落語のくすぐりに取り入れた用例.景勝地をめぐる観光道路が通じており,山形県側にはロープーウェイもある.
"大雷公に大地震、大津波に大戦争、吾妻山が噴火をするという騒ぎ"(果報の遊客)
吾妻山一切経山 1997
会津 あいづ 佃祭(筑摩古典03:07) など 13件8題 (圓朝4件, 東京9件) 福島県 福島県西部.天気予報で浜通り,中通り,会津と出てくるとなるほどそういう地域分類なのだと納得する.御一新以後,不毛の土地で辛酸をなめさせられた会津人.「佃祭」では柾の通った会津の桐下駄が出てくる.
"桐は越後ではございません。会津の桐でございます"(佃祭)
     
猪苗代 いなわしろ 三題余話(東京絵入新聞: (1897)) 耶麻郡北塩原村,磐梯町,猪苗代町 磐梯山麓,猪苗代湖北岸.明治維新で,若松城引き渡しの記述.
"若松の城をお渡しあそばして残る藩中ハ其夜の内猪苗代といふ所迄引取升た"(三題余話)
磐梯山を望む 2012
若松 わかまつ 名月若松城(三一正蔵芝居噺:10) 1件1題 (東京1件) 会津若松市 戊辰戦争で市街は壊滅した.飯盛山から煙のあがる若松の市街を見て,若松城落城と見誤った.飯盛山には,白虎隊自刃十九士の墓,戸ノ口の洞門,二重らせん構造のさざえ堂(国重文)がある.白虎隊自刃地では,隊士像が小手をかざして城を望んでいた.
"お国替えということになりまして会津の若松。こりゃァ石高も増えてましたし、家来の人数も旧に倍するという"(名月若松城)
若松城を望む 2008
若松城 わかまつじょう 続噺柳糸筋(立名人名演01:05) 1件1題 (東京1件) 会津若松市追手町 鶴ヶ城.城の石垣や堀は残るが,天守閣は明治政府により解体,1965年に再建.「名月若松城」は講釈ネタ.主君の蒲生氏郷を相撲で投げ飛ばした西村権四郎の話.国替えになった若松で,やせさらばえた権四郎に再会するという,泣けるストーリー.
"若松城へおもむきしが、会津公にも去る十九日降伏ありしに"(続噺柳糸筋)
若松城廊下橋と枡形 2008
若松:実相寺 じっそうじ 弥次郎(柳家小満ん口演用「てきすと」 26, てきすとの会 (2017)) 会津若松市馬場本町2 源平合戦のありさまを見てきたかのように語る室町期の禅僧,秋風道人の逸話.現在の会津若松に実相寺があるが,無住らしく,墓地も荒れ果てていた.秋風の名がある無縫塔は見つからなかった.
"これは室町後期の天文年間に、会津の実相寺という、禅宗のご住職で"(弥次郎)
実相寺墓地 2019
若松:日新館 にっしんかん 泳ぎの医者(ゆかいな10分落語, 文溪堂 (2012)) 会津若松市米代町 「泳ぎの医者」のマクラに,水練場のあった藩校として登場.若松城の西にあった藩校日新館は,戊辰戦争で焼失した.河東町に観光・教育施設の會津藩校日新館として再現されている.
"藩校とよばれる「日新館」があったんだ。そこには日本で最も古いといわれる水練場があって"(泳ぎの医者)
會津藩校日新館水練水馬池 2012
東山 ひがしやま 転宅(立名作5:11) 1件1題 (東京1件) 会津若松市東山町 「転宅」の妄想旅行.会津若松市街の南東の温泉街.雨降り滝をはじめとする四滝がある.旅館の名にも滝がつく.
"会津の東山へも行ってみたいのサ"(転宅)
東山温泉向滝旅館 1997
磐梯山 ばんだいさん 転宅(立名作5:11) など 15件14題 (東京14件, 上方1件) 耶麻郡北塩原村,磐梯町,猪苗代町 磐梯山は,1888(明治21)年に破局的な大噴火をした.北側に大きな爆裂火口が開いており,南から見るのと全然違う山容.噴出物は五色沼などの湖沼群を作った.日本百名山の一つで磐梯朝日国立公園の中心.
"福島へ行って、磐梯山の噴火のあとを見たいよ"(転宅)
裏磐梯 2012

掲載 030114/最終更新 200501

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