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後開榛名の梅が香   
−おくれざきはるなのうめがか−

 大長編.「榛名の梅吉」や「あんもの草三」といった下敷になる話をもとに,実地調査の上で創作された安中草三の伝記.明治18年から19年にかけて分冊で刊行された.圓生(6)が演じた真鍋の久保田殺し,志ん生(5)が演じた水沢の恒川の危機,土浦牢破りが速記に残っている.通しで演じられることは今後もなさそう.落語のほかに,講談や浪曲でも演じられている.人物関係図とあらすじは前後半の2つに分ける.

 大あらすじ
 安中草三こと草三郎は,恒川に剣術を仕込まれる.恒川の重役殺しの罪をかぶり受牢するが,母に会おうと牢を破る.安中で饅頭商を営んでいたが,恒川の娘を身請けするため再び盗賊となる.ついに死刑.
 草三の生い立ち
 寛政7(1795)年(1800年とした方が後の記述とあう),土浦藩の恒川半三郎,剣術の師匠,成瀬の死を信州岩村田で看取り,剣の伝書を受ける−幼い草三,食べ物欲しさに追分原で恒川の荷物を盗む.草三の父の香散見草七は恒川と旧知.恒川に草三を託す−溝呂木の幸吉,伝書を奪おうとする.恒川斬りつけるが,幸吉,大久保橋から飛び込む/草三,恒川のもとで剣術を習う
大久保橋
 土浦藩重役を殺害
 3年後の1797年(1802年).土浦藩の重役,久保田,筑波山に参詣.茶店で出会った奥住の娘のりゑを嫁に所望−帰路,奥住に絡む浪人朝貝と鶴見を恒川が斬る−これが縁で恒川とりゑ結婚−久保田,これを恨み恒川をいじめ抜く−恒川とりゑ,出勤中の久保田を真鍋の並木で殺害.草三,盗んだ金を路銀として恒川らに渡し,自分が罪をかぶる
土浦真鍋
 恒川の危機
 恒川夫妻,上州水沢に元下僕の藤蔵を頼る.奥住に魔よけの神鏡を預かる−宇都宮の商人杉原,妊娠中のりゑを見染める.八咫烏の九兵衛が,仲を取りもつと言って金をせびる/享和3(1803)年,りゑ,お貞出産−九兵衛,藤蔵を謀殺する−産後のりゑのため,恒川が駕籠に乗って医者を呼びに行く.途中で駕籠屋が恒川を襲うが,神鏡のおかげで失敗−りゑ病死.お坂,九兵衛と密通.恒川,お坂らの態度に怒り出立−やむなく本庄宿で,お貞に神鏡を添えて捨て子.これを取手屋が拾う−九兵衛の手下が恒川を襲うところを一心行者が救う−恒川,根岸の喜平次を頼り植木屋になる
水沢観音
 草三の牢破り
 1798(1803)年3月,母に会いたさに草三と妙義の白蔵とが,嵐に乗じて土浦の牢破り.小田山に潜伏−神郡で白蔵の馴染みのお里に会い,金を受け取る.お里は久保田の妾だった−信州で又五郎の世話を受ける.1799年,根岸の茶屋に勤めるお里のところへ.そこで働いていた歌と草三が契る
神郡村
 榛名山中狼退治
 1799(1804)年8月,恒川,取手屋でお貞を発見.取手屋,恒川が実の親と察して泊める−その晩,草三と白蔵が取手屋に強盗に入る−恒川,白蔵を捕縛し,草三を逃がす−草三,自分が泥棒だと歌に打ち明け,出立.千住大橋で捕り手に見つかる.荒川へ飛び込むと,舟に乗った一心行者一行が助ける−上州の福田屋龍蔵親分を再び訪ねると,安中の駒四郎頼れと言われる.−安中へ向かう途中,摺臼峠で狼の群れに襲われる.伊香保温泉の永井喜八郎が鉄砲でその危機を助ける−偶然白蔵の親の家に泊まり,そこの養子になる−安中藩の栗山,榛名山へ代参の折,落馬.怒る栗山と馬子の間に入ったため斬られかけた草三を,角田親分が助ける−角田の世話で安中の饅頭商に/1800(1805)年12月,白蔵,獄門
磨墨岩
 
 妻の首を斬ってよこせ
 文化2(1805)年(1806年),草三が信州にいると聞いて,信州に向かう歌,安中で雲助に襲われたところを正願寺の玄道に救われる.夜中に金を借りに来た草三と歌が再会−尾崎の娘のきわ,草三に惚れ,父の直右衛門に話をするが,草三に苦言を受ける−歌,熊野権現の祭礼できわの兄,直之進の紋服に泥をつける粗相.わびに首を切れとの仰せ−草三,本当に歌の首を切って持参.さらに年貢の取り立てについて意見−尾崎納得.きわ,髪を下ろし照念尼に−尾崎夫婦死亡.照念,癪をおこす−草三ら見舞い.溝呂木の幸吉が照念を襲うところを草三が助ける.草三の言葉に幸吉,改心
安中宿 歌の墓
 木曽福島の騒動
 恒川,木曽福島で伯父の藤沼家を頼り,剣術道場開く−1806年,浜浦殿,藤沼の娘お藤見染め,手をつける−お松の方嫉妬に狂い,お藤を焼け火箸で刺し殺す−弟の図太郎,わざと勘当を受け,密かにお松を鉄砲で撃ち殺す−恒川,図太郎の身代わりに殺人犯を名乗り書きを残し,福島を出立−下諏訪の鳥居で,幸吉が戯れに恒川の伝書を盗む/沓掛宿で,お常と盲人の母に九兵衛が借金の取り立て.草三が肩代わりしようとする.そこに恒川が現れ,藤蔵を殺した九兵衛に詰め寄る−お常の母の因縁いろいろ.たとえば,幸吉は実の息子−八州の探索が迫る.幸吉,恒川の身代わりになり捕縛.幸吉の父の藤蔵の仇討を約束.恒川らは草三のもとへ.幸吉処刑
下諏訪鳥居前
 榛名の梅吉
 1807年,お里,取手屋の妻に−お里,大戸の喜三郎と関係.喜三郎,侍のなりで取手屋へ押し込み,金を奪う.お里,喜三郎らと逐電−取手屋衰退.おきよに親は恒川と明かす.娘のおきよ,角海老へ身売り,愛馴となる−伝太郎改め東叡山の小姓,岩次郎と愛馴が馴染み/草三,お常と結婚−春と重兵衛相次いで死亡−恒川,御嶽山に参詣する喜平次に会い,取手屋が没落した事を聞く−草三,愛馴の身請金300両を用意.恒川それを持って娘の身請けに出立−箕田で,かどわかしを助ける.実は狂言で,300両盗まれる.犯人の1人,お里は恒川に斬られる.いまわの際に,息子の伝太郎のことを頼み死亡−草三,300両を盗んだ罪で手配.八州の大沼に捕まりかけるところを,喜三郎が大沼を鉄砲で撃つ−ともに龍蔵方へ.草三,榛名様の飯炊きの梅吉と名をかえる
箕田碑
 榛名山中を行く女衒
 岩次郎,遣いこみが顕れて勘当.愛馴と榛名様へ駆け落ち−山中で駕籠屋に強請られるところを龍蔵が助ける−女衒の源七,愛馴の行方探しを龍蔵親分に頼む−梅吉ら,源七を案内して,榛名山中を夜越し.榛名の本坊に愛馴はいない−そこで再び山越え.二つ嶽の温泉で愛馴をかくまう九兵衛に出会う−お常を安中から呼び出し,九兵衛とお坂を殺し,父の仇討とげる.岩次郎を説得し,愛馴,吉原へ戻る
二つ嶽の温泉
 草三の最期
 草三の母が安中で草三を探しに来たという噂.草三,母に会いたさに一心行者一行に御嶽山の衣類を借り,和見峠を越えて安中へ向かう−照念尼の世話になる母と妹を発見−恒川から奪った金を返しに喜三郎ら江戸へ出立.遅れて草三も出立−喜三郎ら,鴻巣の宿屋で恒川に金を返した上で,八州の御用となる−恒川,その金で愛馴身請け.取手屋再興−愛馴改めきよ,岩次郎と結婚−岩次郎,草三を父の仇だと信じる.恒川,自分が本当の仇だと話して自害−久保田家再興.取手屋身代は番頭へ譲る/草三,密かに吉原の源七を訪ね,一部始終の話を聞き,安心して捕縛される−1821年,草三,喜三郎,清次処刑
安中 草三之碑

 はなしの足あと
 信州,上州,武蔵,常陸と噺の舞台が舞台が広がっている.1)少年草三と恒川の出会いが信州小田井あたり.2)重役の久保田殺害が土浦郊外真鍋あたり.3)地図では区別できないが,黒沢で殺されかけた恒川は,水沢を離れて江戸で植木屋になる.4)草三の牢破りは土浦から小田を経て寺具までの道中.5)千住大橋で捕縛されそうになった草三は隅田川に飛び込み,伊香保を越えて逃げる.その先,摺臼峠で狼に襲われる.以後のストーリーは,安中が主な舞台となる.6)奸婦を殺した恒川が福島を脱出する挿話があり,7)せっかく草三から金を箕田で奪われる.8)八州の手が回ったため草三は安中を脱出し,榛名山の飯炊きになる.9)駆け落ちした愛馴は地蔵峠を越えて榛名山に入る.10)それを追った女衒は草三の案内で天神峠を越えて榛名山に入る.11)碓氷を避け和見峠を越えて母と再会した草三は,吉原で捕縛される.

 はなしの人びと
吾妻の清治 あがつまのせいじ (-1821.12.26) 恒川から身請けの金奪う.草三とともに死刑.
朝貝林左衛門 あさがいりんざえもん (1760頃-1802.05.20) 奥住にからみ恒川に斬られる.
安中草三 あんなかそうざ (1785-1821.12.26) 草三郎.信州出身.恒川と土浦で修行.久保田殺しの罪をかぶり受牢.牢破り取手屋襲い恒川と再会.安中で饅頭商.恒川の子身請けのため盗賊.榛名の梅吉.死刑.
一心 いっしん   木曽御嶽の行者.恒川,また草三を救う.
うた   草三の妻.尾崎へ意見するため草三に殺される.
大戸の喜三郎 おおどのきさぶろう (-1821.12.26) 恒川から身請け金奪う.草三とともに死刑.
大沼金七郎 おおぬまきんしちろう (-1818.08.23) 八州捕方.喜三郎らに撃たれる.
奥石重兵衛 おくいしじゅうべえ   元本所の米屋河内屋.白蔵の実父.草三を養子にする.
奥住弥兵衛 おくずみやへえ (1748-) 土屋藩奥向き役.恒川に救われる.
尾崎直右衛門 おざきなおえもん (1753-) 板倉藩の重役.
尾崎直之進 おざきなおのしん (1776-) おきわの婿にしようと画策し,草三に意見される.
香散見草七 かざみそうしち   草三の父.元水野織部正家臣.恒川と旧知己.
木曽川成瀬 きそがわなるせ (-1800.09.03) 恒川の師.もと神田三河町.信州岩村田.登場しない.
喜平次 きへいじ (1748-) 根岸の植木屋.恒川が厄介になる.
きよ きよ (1803.02.11-) 恒川,りゑの子で貞.取手屋に養育される.吉原で愛馴.岩次郎と夫婦.
京五郎 きょうごろう (-1803.03.25) 稲石村.土浦の牢名主.白蔵らに殺される.
きわ きわ (1789-) 尾崎の娘.草三の意見で出家し,照念.
久保田伝之進 くぼたでんのしん (-1802.09.09) 土屋半重役.恒川に斬られる.岩次郎の実父.
栗山佐平 くりやまさへい (1806-09.11) 尾崎の家臣.代参.盗み聞きをしたところを直之進に殺される.
黒川荘助 くろかわしょうすけ   藤沼の旧家来.図太郎預かる.
源蔵 げんぞう (-1802.09.09) 久保田の若党.りえに斬られる.
玄道 げんどう   正願寺の和尚.金貸.
佐泉勘二郎 さいずみかんじろう (-1802.09.09) 久保田の下役.密通したそよと逐電の際事故死.
さか (1772-1819.03.16) 藤蔵の妻.九兵衛と密通.草三らに討たれる.
さと   久保田の妾で伝太郎の母.白蔵の情婦.
七蔵 しちぞう (-1803.02) 九兵衛の子分.駕籠中の恒川襲うが殺される.
しま しま   尾崎直右衛門の妻.
重太郎 じゅうたろう   草三,お常の子.
白蔵 しろぞう (1780-1805.12.26) 妙義無宿.白雲.草三と牢破り.重兵衛の実子.獄門.
角田駒四郎 すみたこましろう (1774-) 安中の親分.草三を福田屋が紹介.
そよ そよ   取手出身.久保田の下女.取手屋きよの乳母.
つね (1684頃-) 木曾福島穀問屋越中屋の娘.恒川の妻.綱とも.
つね (1796-) 藤蔵,春の子.草三の2番目の妻.
恒川半三郎 つねかわはんざぶろう (1774-1819.12.26) 土屋藩.重役の久保田を斬り浪人,草三の世話になる.婿の伝太郎に自分を斬らせる.
藤蔵 とうぞう   恒川の下僕.後水沢で商売.九兵衛に殺される.
図太郎 とたろう (1800-) 藤沼の子.お松討つ.
取手屋九兵衛 とりでやくへえ (1762-1813.12頃) 下谷の呉服屋.おきよの養父.後に没落.
永井喜八郎 ながいきはちろう   伊香保の宿屋.俳名一郎.草三を狼から救う.
浜浦殿 はまうらとの   信州福島の殿様.恒川が剣術指南.
はる はる (1758頃-) 草三の母.最後に草三と再会果たす.
はる   石井文左衛門の妻.眼を患う.
福田屋龍蔵 ふくだやりゅうぞう   伊香保の親分.草三を梅吉としてかくまう.
ふじ (1793-1811.03.18) 藤沼の子.浜浦殿に奉公.お松に殺される.
又五郎 またごろう   相の川の親分.草三ら厄介.
まつ   浜浦の妾.子を設ける.白須新五右衛門の子.お藤を殺す.
丸太屋清五郎 まるたやせいごろう   安中宿の饅頭屋.
簾形岩次郎 みすがたいわじろう   上野の大慈院の小姓.遊女愛馴と馴染み.お里と久保田の子で伝太郎.
溝呂木の幸吉 みぞろぎのこうきち (1776-) 恒川の伝書盗む.藤蔵の子で鹿之八.お松殺しをかぶり死刑.
八咫烏の九兵衛 やたがらすのくへえ (1765-1819.03.16) お坂と藤蔵を殺す.草三らに討たれる.
弥太郎 やたろう (-1803.02) 九兵衛の子分.駕籠の中の恒川を襲うが殺される.
りゑ りえ (1783-1803) 奥住の娘.恒川の妻.お貞を産んで病死.

掲載 090101/最終更新 100805

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