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蝦夷なまり   
−ちんせつえぞなまり−

 「椿説 蝦夷なまり」は,「蝦夷錦故郷之家土産」の続編.井上馨・山県有朋の北海道視察に同行した時の見聞をもとにした作品.主人公はお録からお嘉代に移り,ストーリーのつながりも少ない.明治29年に博文館から出版.札幌,小樽,函館の三都とそこをつなぐ道筋が詳しく描かれる.北海道を舞台とするもっとも初期の小説でもあり,北海道文学全集の巻頭に収められている.

 大あらすじ
 五稜郭の戦の遺児,お嘉代は札幌,室蘭,函館と渡り歩く.「蝦夷錦」の信浄らとともに出家をとげる.
 五稜郭の戦い
 明治2(1869)年,五稜郭神山口に立てこもる春日左衛門率いる幕軍は落城を覚悟−形見と遺言を託された室田が1人で脱出−七重一行庵の庵主,信浄と妙林(蝦夷錦の主人公)に匿われる−東京で春日の娘,お嘉代を引き取って養育する/1877年,養女であるにもかかわらずお嘉代を妻に欲する室田に嫌気−お嘉代,長野の商人,畠野の宴会で交島と出会う/2人は函館行きの船で出奔−船中,交島が妻子のあることを漏らす.お嘉代,姿を消す.船から海に飛び込んだらしい
一行院あと
 裸馬で登別へ
 お嘉代,札幌で偶然酒井倉吉の妻,お仙に会い,逗留/ある晩,倉吉一家が大ヒグマに襲われる.嘉代は馬に乗せられて逃げる−一晩中走り,登別でやっと下馬.アイヌ人に救われる−そこへ現れた滝本金蔵の旅館に逗留−信浄らに会うが,怪しいという滝本の言葉を信じて彼らには同道しない−お仙へ宛てた手紙をつけて馬を札幌へ帰す/お仙の使いが来て,お仙は室蘭にいるとのこと
札幌清華亭
 蓴菜沼の滑稽
 お嘉代,結局だまされて貸座敷に売られる.金田,お嘉代に懸想−母の富美を欺き,お嘉代を女中として引き会わそうとする−富美,お嘉代の振る舞いを気に入り,娘分として引き取る/室蘭から森まで船で移動.蓴菜沼の滑稽いろいろ−お嘉代,父の遺髪の埋まる一行庵へ行く−今は一行庵の庵主の妙林,かつて洗馬宿で同愛社を紹介された金田と再会−妙林の懴悔話ひとしきり−お嘉代も自らの身を考え出家を決意−剃髪したお仙に偶然会う
樽前山
 函館の再会
 交島の妻,お組,交島が戻らないのを案じて,1878年2月,東京へ−室田に会い,室田の別荘に逗留/1879年,室田死亡.お組,財産を譲り受け,遺児のお竹を養女に−別荘を買いに来た金田の話から,お嘉代の居所を知る−お組,函館へ−お組,患いつく−尼(春声)の手当で快方に−春声,お組の事情を知るが,病気が悪化することを恐れて名前を告げられない−交島が自分の預金を引き取るときに知らせようと,手紙を銀行に預ける−交島,手紙を見てお組と再会−交島は室田のお嘉代への想いを覚まそうとお嘉代を連れ出したが,お嘉代が入水したため,石巻の寺で修行していたと話す/春声,諸国行脚の後,寺を建立し,1885年入滅
旧函館区公会堂

 はなしの足あと
 官軍に包囲された五稜郭を脱出した室田が峠下の寺にかくまわれるのが発端.1)東京で知り合った交島とお嘉代の船旅は,東京湾から荻の浜まで続く.以下は,北海道に舞台が移る.2)馬に乗せられたお嘉代が札幌から登別までいく道中付けが細かい.4)室蘭から森まで船で行き,そこからは陸路で函館へ向かう.途中,蓴菜沼での滑稽がはさまれる.3)圓朝による小樽から札幌への道筋,札幌,小樽,函館の町の様子がそれぞれが詳しい.
 はなしの人びと
綾川信夫 あやがわのぶお (1837-) 信之進の次男.幼名信次郎.出家し信浄.
春日左衛門 かすがさえもん   幕兵隊長.五稜郭で打ち死に.お嘉代の父.
金田松之助 かねだまつのすけ (1842-) 金次郎の時,玉村でお録に観音院を紹介.芝桜田の富豪.お嘉代を見染める.
嘉代 かよ (1860.10-1885.02.25) 主人公.交島の情婦.室蘭で遊女.春声尼.
喜代 きよ (1840-1860) 春日の主家の腰元.お嘉代の母.登場しない.
国右衛門 くにえもん   青戸村の百姓.お嘉代を養育.登場しない.
くみ (1860-) 交島の妻.交島失喪後室田の世話.函館で再会.
交島武雄 こうじまたけお (1850頃-) 元前橋藩.お嘉代と密通.後悔し一時梅寺知教.
酒井倉吉 さかいくらきち (-1878.01.17) お仙の夫.陸前出身.お嘉代を世話.
せん (1836頃-) 元お嘉代の下女.札幌で酒井の夫.真念尼.
滝本金蔵 たきもときんぞう (1827-) 登別の宿屋.お嘉代を泊める.
たけ (1874-) 交島,お組の子.
竹二 たけじ (1877-) 交島,お組の子.
出口治郎兵衛 でぐちじろべえ   骨董屋.金田の取り巻き.
留吉 とめきち (1877-1878.01.17) 酒井,お仙の子.熊に殺される.
酉蔵 とりぞう (1846または1858-1878.01.19頃) 酒井の奉公人.熊に殺される.
永山武四郎 ながやまたけしろう [1837-1904] 開拓使.
畠野庄六 はたのしょうろく   横浜の商人.巣鴨の別荘へ室田を呼ぶ.
富美 ふみ   金田松之助の母.お嘉代を身請け.
妙林 みょうりん (1841-) お録参照.一行庵主.
室田信平 むろたしんぺい (1825-1879.02.04) 旧名大畠外記.お嘉代を養育,恋慕.
森長安 もりながやす   開拓使.鹿児島出身.熊を撃ち殺す.

掲載 090101/最終更新 100805

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