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業平文治   
−なりひらぶんじ−

 圓朝作品ではない.『時事新報』1927年5月3日〜12月22日にかけて連載された.全201回.囲み文字で"侠客"とある.前半の「業平文治漂流奇談」と後半の仇討までの全編を描いている.談洲楼燕枝(2)演とあるが,少なくとも後半の文体は作家が書いたもの.すでに明治36年に圓橘演の「後の業平文治」が『時事新報』に連載されているにもかかわらず,全く違うストーリーとなっている.駕籠でのおまちの誘拐,熊の穴に落ちるおまち,蟠龍軒の海賊船といった主要プロットは取り入れているので,「後の業平文治」の内容を知りつつも,勝手な改作をしたのだろう.連載期間中に「後の業平文治」が載った『圓朝全集』が出版されており,両者がはからずも比較されることになった.

 大あらすじ
 前半は圓朝の「業平文治漂流奇談」をほぼなぞる.後半は原作とは別のストーリー.弟の蟠作を殺された蟠龍軒は,仕返しに文治の母を惨殺する.お尋ね者となった文治と蟠龍軒は,江戸を逃れ,それぞれが互いを敵としてたずね歩く.一時は海賊船の首領となった蟠龍軒だが,江戸へ戻ってきたところを文治とおまちに討たれる.
 「業平文治漂流奇談」
 寒中の業平天神で倒れたおまちを文治が救う−眼病の父の薬料がわりに蟠龍軒の妾になれ/前橋の商人松屋の危機を文治救う/浅草見附で亥太郎と喧嘩.番所の鉄砲を持ち出して受牢中の亥太郎の父に金を渡す.亥太郎と親密になる/はしけの長吉の怪談(別話,30回)/浪人藤原の妻のおあさが文治に恋文−藤原の母を餓死させようとするおあさを文治が殴り殺す−恋文を見た藤原は納得−藤原帰参が叶う/蟠作は芸者おむらの身請けはかる−おむらと友之助の心中を文治救う−賭け碁で負けた友之助は妻のおむらと金を奪われる−交渉に出た文治は額に傷うける−蟠龍軒は庄左衛門を闇討ち−亥太郎が証拠の胴乱を拾う/文治,おまちと結婚するが,蟠龍軒を討つために毎晩夜中に外出
番屋の捕具
 駕籠の御難
 文治は大伴道場に踏み込み蟠作や弟子を殺害.蟠龍軒は不在−翌晩,蟠龍軒を討つため,おまちと文治が再び大伴道場へ−行き違いに蟠龍軒が文治の留守宅で文治の母の首を切る/友之助が捕縛され,文治に嫌疑がかかる−お尋ね者となった文治とおまち,蟠龍軒は辛くも江戸を脱出−文治とおまちは宇都宮で捕縛されかけ,山越えで前橋へ向かう−足尾の山中で雲助の駕籠におまちがさらわれる/文治が泊まった老婆宅が山賊の隠れ家−おまちを救い出して逃げる−前橋の松屋に逗留/二人連れでは目立つため,文治一人で敵を探す
駕籠はいかがで
 蟠龍軒 海賊になる
 行徳へ逃れた蟠龍軒は,木更津行きの荷船に乗せてもらう.これが実は海賊船−蟠龍軒を邪魔に思う副頭の大五郎は真剣勝負を挑む.勝った大伴も副頭に−遠州灘で乗っ取った船を第二明神丸として蟠龍軒が率いることになり,大五郎と別れる−大原で旅籠屋を襲う.奪った葛籠には,医者の秋田と情夫の娘おまさが入っていた−娘は船からおろし,なおも海賊を繰り返す
船が見えたぞ
 大洗の一夜
 文治は,笠間で知り合った武士に連れられ,大洗見物−その晩は祝町遊廓へ.出てきた女は,初めての客取り−話を聞くと,海賊船にさらわれた娘,おまさだった.おまさの話で大伴が明神丸に乗っていることを知る−おまさを身請けし,茂原の親許へ送り届ける/港を探るうちに,海賊船の噂を聞きつける−下田に向かう途中,濃霧の中大船にぶつけられて難船−助けに現れた船には明神丸とある−海賊船と知りつつ,文治が一人乗りこんだ−しかし,こちらは大五郎が乗った方の明神丸だった−蟠龍軒を憎む大五郎は,蟠龍軒の消息を伝える/文治はおまちを迎えに前橋へ
宿屋の二階
 約束はやぶるもの
 前橋の松屋に亥太郎がやって来る−おまちとともに奥州路へ−会津の中山峠で山賊に襲われ,亥太郎は崖から転落−追い詰められたおまちも崖から飛び降りる−山賊はしつこく追って来た.おまちが飛び込んだのは熊の穴−山賊は熊に殺される−翌日,熊に連れられ里へ出る−無事だった亥太郎に出会う/文治からの手紙を受け取り,前橋へ戻る−公用で出張の藤原とも再会.お尋ね者の文治は,藤原の身内に化けて江戸へ戻る−駒込の追分で捕り方に囲まれている蟠龍軒を見る−藤原が与力と交渉し,生け捕りを条件に文治とおまちが捕物に加わる−約束を違え,蟠龍軒を討つ−奉行・老中の計らいで,浪島改め業平文治として旧家に戻る
越えじの中山峠

 はなしの足あと
 後半は江戸を離れる.文治・おまちは,宇都宮経由で前橋へ.敵の蟠龍軒は海賊船で太平洋岸を荒らし回る.蟠龍軒を探す文治は,大洗から南下し,下田沖で難破する.興津から前橋へ戻る経路は,経由地名が挙げられるだけで.道中のシーンはない.

掲載 240501

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