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松の操美人の生埋   
−まつのみさおびじんのいきうめ−

 フランスの小説を翻案したもの.英文のBuried Aliveを福地桜痴が圓朝に伝えたという.明治19年,やまと新聞の創刊にあわせて連載.原作でカレーからロンドンへ女をかくまう場面を,浦賀から天神山に置き換えている.浦賀を実地調査した上で創作しており,実在の江戸屋半五郎を配している.隠し扉の奥の盗賊の隠れ家,床下の生埋など猟奇的な描写あり,幇間の滑稽ありと楽しめる作品.

 大あらすじ
 命の恩人粥河と結婚したお蘭,留守勝ちの夫の正体が盗賊で,人を殺めるところを盗み見る.身代わりが葬られ,自分は生埋に.侠客山三郎がお蘭を助け,粥河と決闘.山三郎を裏切る江戸屋半治.どちらが勝つのか.
 池上の茶店の花
 明和2(1765)年,元金森家の重役の粥河が,芸者小兼らとお会式の池上詣で−茶店で働くお蘭に会う.お蘭は小兼の主人の娘−浦賀の名主役石井山三郎と江戸屋半治も来る−山三郎,病気のお蘭の母のために多分の茶代を置く.金入れを忘れている−お蘭,跡を追って届けようとするところを侍が襲い,粥河が助ける.金入れは侍の手に−真葛の仲介で,無理やりにお蘭と粥河結納/山三郎,川崎の宿で半治と馴染みの小兼を引き合わす−饅頭商の井桁屋米蔵,隣室の侍が荷を盗んだと訴え,荷を開かせるが誤り.山三郎が間に入り,盗まれた自分の金入れを発見.侍すごすごと退散
池上本門寺大堂
 隠し扉の奥は悪の巣窟
 1767年,小兼,お蘭を訪問.粥河はずっと留守と聞き,鎌倉の屋敷へ同道する−途中,井桁屋の妻のお直に会う−お蘭屋敷を探し当てる.本棚の隠し戸を偶然見つける−その晩,粥河帰宅するが,すぐに出かける−不審に思い,隠し戸より奥座敷をのぞく−粥河,真葛ら悪党の集会.中で女が縛られている.悪党口論の末女を殺す−お蘭気絶

大津の諏訪神社
 美人の生埋
 山三郎と馬作,釣りで嵐に遭って漂着.3年前に池上で財布を盗んだ侍らが,馬堀の定蓮寺の床下に棺桶を埋めるのを見る−井桁屋からお蘭が死んだと聞き,穴掘りに化けて,おこう剃りに紛れて覗くと葬式の死体はおみわ−改めて定蓮寺に行き,埋められた棺の蓋を開けると,中には生埋にされたお蘭.これを船底に隠して,上総の天神山へかくまう−お蘭ついに事情を話し,粥河を改心させると約束
馬堀の浄林寺
 小原山の決闘
 山三郎の母より手紙が来て、妹のお藤と粥河とが結納という−あわてて戻り,粥河に強引に断り−その晩,粥河より果たし状が届く.母に置き手紙して,お蘭に明晩まで開けるなと手紙を渡す−奉行を務める兄の一色宮内に会い,白馬もらい決闘に望む−粥河の繰り出す馬には馬,剣には剣,鉄砲には鉄砲で対抗する山三郎.粥河,叶わないとみると平伏,坊主になって改心するから翌日アジトに来てくれと言う
鴨居小原山
 坊主の生埋
 山三郎,半次郎の兄の半五郎に訳を話し,お蘭のことを頼む−半治,小兼と半次郎と口論.半治兄弟の縁切りを取る−海禅の悪事暴き,小兼を譲るとの筋書きを話した上,粥河の一味へ入る紹介状を手に入れる−小兼来るが,筋立てと違い,海禅を縛って元の棺桶に生埋め
江戸屋半五郎墓
 裏切りの館
 半治,粥河のアジトに現れ,紹介状を見せて手下になろうと申し出るが,疑われる.小兼が追ってきたのを半治殴り,木に縛る−半治の案で毒酒を山三郎に飲ませることに決まる−続いて山三郎が来るが,勧められた毒酒を飲まない.庭に縛られた小兼に気づき詰問−山三郎と粥河一味の立ち回り.実は半治は裏切ったのではなく,山三郎側.粥河らを捕らえる.手下は八州の手に.粥河自害.お蘭出家  

 はなしの足あと
 発端は本門寺(大田区池上)のお会式.川崎までの道中付けが出てくる.お蘭は,高輪(港区高輪)から横須賀まで船に乗り,大津を通って粥河の屋敷に行く.浦賀と天神山との移動には船を使っている.実地調査に基づく創作のため,大津,浦賀(いずれも横須賀市)あたりの地名が非常に詳しく,このスケールの地図には書ききれない.
 はなしの人びと
井桁屋米蔵 いげたやよねぞう   相州高沢の饅頭屋.宿屋で荷物間違う.
石井山三郎 いしいさんざぶろう (1738-) アレキサンドル.一色宮内の子.もと回船問屋.
一色宮内 いっしきくない   山三郎の腹違いの兄.浦賀陣屋の奉行.
馬作 うまさく   焉馬の弟子.幇間.
江戸屋半治 えどやはんじ   西浦賀,女郎屋.石井山三郎の友人.
海禅 かいぜん   定蓮寺の破戒僧.粥河の一味.
金森兵部少輔 かなもりひょうぶしょうゆう   頼錦.宝暦8年改易.粥河の主人.本文通り,子の出雲守は,南部大膳の許に.登場しない.
粥河図書 かゆかわずしょ (1732または1739頃-1767.04.16) ヴリウ.元金森兵部の重役で盗賊首領.自害.
小兼 こかね   芳町の芸者.半治の情婦.
千島礼三 ちしまれいぞう   チャーレ.元金森家の御小納戸役.粥河の一味.
なお   井桁屋米蔵の妻.
半五郎 はんごろう (1717-) 江戸屋半治の兄.親分.
ふじ   石井山三郎のたね違いの妹.
真葛周玄 まくずしゅうげん   マクス.元按摩医者.粥河の一味.
みわ みわ (1751頃-1767.04) 吉崎宗右衛門の子.粥河に殺される.
吉崎惣之助 よしざきそうのすけ   おすみの婿養子.石井の継父.
らん (1747-) コウラン.岩瀬主水の子.池上の茶店娘から粥河の妻,出家し妙貞.

掲載 090101/最終更新 100805

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