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魚の狂句   
もはや風俗史料 −うおのきょうく−

 上方の古典落語.大阪各地の色町やさまざまな女性たちを魚に見立てた狂句に読み込む.遊里が失われた今となっては,当時の様子をうかがわせる風俗史料とさえ言える.桂米朝(3)と林家染丸(2),桂小春團治(1)など4つの速記をくらべる.


 大あらすじ
 あたりもはばからず女郎買いの誘いに来た男に,ちょっと川柳のような隠し言葉で誘えとたしなめる.実際に教えてやろうとばかり,色町や女子衆を魚に見立てた狂句を即興で披露してみせる.

 こぼれ話
 こんな落語もあったという貴重な資料.4種の速記とも文句はほとんど同じで,ルーツは1つのようだ.ある句が別の土地に入れ替わっているのが興味深い.どの色町にもなじみがないので,入れ替わってもちっともわからない.
 染丸は大正期,小春團治は昭和初期の速記.もちろん米朝は戦後で,小島貞二も戦後の聞書.
○新町:吉原,島原とならび日本三廓の一つ.大阪市西区
 潮煮や鯛の風味の名も高し(染丸・米朝・小島)
 潮煮や鯛の風味に名も高き(小春團治)
○南地:大阪ミナミ.そのどことは書いていない
 鯛よりもまたその勢は初鰹(染丸)
 鯛よりもその勢は初鰹(小春團治・小島)
○島之内:宗右衛門町のこと.ミナミの伝統的遊里
 風鈴の音も涼しき洗い鯉(染丸・小春團治)
 鯛よりもその勢いを初鰹(米朝)
 葉生姜をちょっと相手に鰈かな(小島)
○難波新地:新しい遊所なので活気がある.今の戎橋南あたり
 若鮎のうらやましくぞ見えにける(米朝)

宗右衛門町
○北の新地:明治期に大火があった.粋なところがあるという説明
 葉生姜の一寸あいてはカレーかな(染丸)
 葉生姜の一寸あいてに鰈かな(小春團治)
 風鈴の音も涼しき洗い鯉(米朝・小島)
○堀江:堀江芸者なんて文句も出てくるが,今はまったく失われた
 あいの魚うらやましくに見えにけり(染丸)
 鮎の魚うらやましくぞ見えにけり(小春團治)
 葉生姜をちょっと相手に鰈かな(米朝)
 昆布巻きの中に鮒ありもろこあり(小島)
○坂町:大阪ミナミ.南地五花街の一.難波新地にも隣接
 昆布巻きの中に鮒ありもろこあり(小春團治・米朝)
○松島:大阪西区.ちょっと離れた場所で,やや格が下がる
 玉味噌の悪土臭きぼらの汁(染丸・小春團治・米朝)
 たま味噌のあと土臭きぼらの汁(小島)


堀江廓
○堅気の娘
 寿司につけまだ水臭きさよりかな(染丸・小春團治・米朝)
 酢につけてまだ水臭きさよりかな(小島)
○後家さん
 匂いには誰も焦がるる鰻かな(染丸・小春團治・米朝・小島)
○お妾さん
 いしなぎや毒のあるのを知りながら(染丸・小春團治・米朝・小島)
○お乳母さん
 食へば食ふ見ては不粋ななまずかな(染丸・小島)
 食へばくふ見ては不態な鯰かな(小春團治)
 食えば食え見ては不粋な鯰かな(米朝)
○女中
 つまみ食いあと生臭き鰯かな(染丸・小春團治・米朝・小島)
○間男
 河豚汁や鯛のあるのに無分別(染丸・小春團治・米朝・小島)
○尼さん
 タコイカはなぜに魚のようでなし(染丸・小春團治・米朝・小島)
○自分の嫁
 これはまた無くてはならぬ鰹節(染丸・小春團治・米朝・小島)

 鰹節か.それでお前をダシに使たんや,がサゲ.
 おかかかかねばダシとれぬ
 かかおかかれてダシぬかれ 失礼つかまつりました.

タコせんべい イカせんべい

掲載 110802

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