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鰻屋   
浪華名店獨案内 −うなぎや−

 上方落語.初代春團治と桂枝雀,2人の爆笑王の口演を参考にした.東京では「素人鰻」という噺になるが,演出は違っており,友達におごるといって市内をあちこち連れ回す場面はない.東京のネタとしては,幇間に食事を振る舞うといって市内を引っ張り回す部分がそっくりな「王子の幇間」を取り上げた.

 大あらすじ
 開店したばかりの鰻屋の主人,まだ満足に鰻をさばけない.待たせたお詫びに酒代をただにしてもらった男が,友達を誘って再び鰻屋を訪れる.鰻を捕まえようとする主人の手から鰻が逃げ回り,とうとう店の外へ飛び出した.

 こぼれ話
 道中付けは噺の本筋とは関係ない.鰻をつかんだまま外に出た主人にどこへ行くかと聞くと,前へ回って鰻に訊いとくれ,がサゲ.士族の商法を描いた「素人鰻」もサゲは一緒.
 上方の演出では,一杯飲ませてやるという言葉につられて,喜六とおぼしき男がひどい目にあった話が前段についている.一杯飲ますといわれたうれしさに,大阪の町を東の端からに西の端までついていくが空振り,道頓堀の日本橋にやってきてやれ名店で一杯飲めるというところから,大阪の食事どころの紹介が始まる.結局あてがはずれ,淀の流れの一筋,道頓堀川の水をすくって飲むはめになってしまう.
 果たして今,一杯の酒をごちそうになるために大阪中ついていく人がどれだけいるだろうか.純米大吟醸はともかく,第○のビールなんて,缶コーヒーよりも安くなっている.友達づきあいを大切にする好漢哉!喜六どの.

淀の流れの一筋
 喜六を連れた徳さんは日本橋の南詰め,道頓堀の南側の通りを西に向かう.橋爪節也の書いた大正時代の道頓堀のガイド本(『モダン道頓堀探検』)片手に,実際に歩いてみよう.
 大正時代の道頓堀は,両側に商店,飲食店,芝居小屋と芝居茶屋がびっしりと軒を連ねている.残念ながら原図を示すことはできないので,大正時代の地図の一部とガイドに出てくる店名だけをあげさせてもらう.太字は噺にでてくる地名,下線は地図で見つけた店名です.
 地元の人間でないので,嘆く資格もないのだが,今も道頓堀で営業している店はずいぶんと少なくなっている.十銭まむしの出雲屋はたくさんの店舗があったようで,場所こそ違え,出雲屋は今でもおなじみの鰻屋だ.戎橋北詰にあったいずも屋は,"むかしからの"を店名につけていたが,いつの間にか無くなっている.高級な鰻をおごってもらえると喜んだ柴藤の道頓堀店はなくなったが,北浜の方の店は今も盛んにやっている.徳さんたちが最後にやってくるのが,新戎橋のほとりに浮かんでいたかき船の店.これも昭和のうちにすべて廃業した.かき船の雰囲気を味わいたいならば,淀屋橋のたもと,土佐堀川の中に浮かぶかき広を訪ねることができる.

大阪市街地図
(部分,大正7年)
 地図に目をこらせば,落語に出てくる店がたくさん見つかる.戎橋の北西詰に○に万の字が見えるが,これが「土橋万歳」のうどんの丸万.「まんじゅうこわい」の橘屋は戎橋の南西詰にある.「親子茶屋」の親父が法談を聞く万福寺は左端の方に見える.ほかにも,地図には料亭のはり半,お茶屋の富田屋,魚スキの丸万,寄席の紅梅亭や花月の名前が見える.ガイド本の方が取り上げた店も忘れてはいけない.店舗も新しくなった関東煮のたこ梅,小指の先ほどの大きさの雛寿司,今井楽器店はうどん屋として今も道頓堀でがんばっている.ちょっと離れれば、夫婦善哉,カレーの自由軒,正弁丹吾といった歴史のある名店があり,今の流行を取り入れた新しい店の両方を楽しむことができる.


雛寿司
 道中付け
 道中付け:日本橋→出雲屋→太左衛門橋→天神→芝藤→三柳亭→新戎橋 (桂春團治(1)による)
 道中付け:堺筋→本町→玉造→松島→萩之茶屋→道頓堀→出雲屋→井筒→柴藤→山陽亭→新戎橋 (桂枝雀(2)による)

 道頓堀浜側東から西:日本橋ます市(旅館),平林(ぜんざい),東古館(理髪),春陽館(写真),足代(眼鏡),高阪(足袋・煙草),荒井(玩具),更科(そば),マルキパン,末広(寿司),角治(パン・灘万),こぎれ屋(半襟),古館(理髪),天津号(甘栗),ヨカロー(洋食すき),こやま(小間物),大鐙閣(書店),井筒屋(うどん),向田(足袋・煙草),西田(帽子),柿沢(文具),ゑり藤(半襟),東京屋(履物),深川(そば),西洋軒(洋食),出雲屋(十銭まむし),相合橋,福住(天麩羅),ムライ(洋食),北むら(精肉すき),朝日すし,五色飴,待合(料理),松重(うなぎ),紙幸(芝居茶屋),共栄社(文具),稲照(芝居茶屋),柴田(芝居茶屋),来々軒(甘栗),堺利三(芝居茶屋),晴雲堂(写真),太左衛門橋,蛎秀(蛎船),天金(天麩羅),井筒屋(うどん),戎おこし(粟おこし),いづゝ(パン),高砂(芝居茶屋),近安(芝居茶屋),出雲屋(うなぎ),堺重(芝居茶屋),キャバレー・ヅ・パノン(旗のバー),松川(芝居茶屋),三亀(芝居茶屋),大儀(芝居茶屋),我童飴(役者飴),広珍園(中華料理),兵忠(芝居茶屋),明文堂(書店),新庄屋(雑貨),我楽多(美術・骨董),雛寿司,大閤堂(せんべい),一分間写真,深川(そば),山陽亭(洋食),大佐(芝居茶屋),大彌(芝居茶屋),まる政(寿司),キャバレー・ヅ・パノン創立事務所,エジプト(家具),写真屋,木下洋服店,蛎船入口,戎橋
 道頓堀南側東から西:堺筋,江戸屋(菓子),竹田呉服店,たこ梅(関東煮),丹げん(かまぼこ),ほてい堂(菓子),ゑり久(半襟),二葉(寿司),弁天座,大島(袋物),秋山(ネル),竹横,末広すし,末広帽子店,住吉屋旅館,三四堂(雑貨),丹波屋(婦人物・小間物),川竹(シャツ・ヒモ),カフェ・サンライズ,篠田帯店,てんぐ(小間物),塚本(モスリン・友仙),篠田ちりめん,さの半(かまぼこ),ダルマや黒川(袋物),西岡(洋傘・肩掛け),ニコニコ(お汁粉),マルヨ(半襟),京屋(洋傘・足袋),朝横,吉田(帽子),朝日座(映画),石川呉服店きんなべ(すき焼き),やぐらおこし,角座,小林(煙草),友井堂(菓子),八百嘉(果物),千日前,中村(小間物),京與(沖すき),カフェ・アイオイ,世界(洋食),来々軒(甘栗),福田(料理),法善寺への道,今井楽器店,長栄堂(俳優飴),中座,利久堂(和菓子),中横,あづま(寿司),加藤(小間物),脇田(帽子),なにわ(料理),パウリスタ,やぐらおこし,浪花座丸万中店(かまぼこ),梨木(洋服),戎橋筋,橘屋(和菓子),浅井(ローソク),梅園(汁粉),明陽軒(洋食),柴藤(うなぎ) (橋爪節也,モダン道頓堀探検,創元社)

掲載 110619

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