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近江八景
伝統の名数 −おうみはっけい−

 上方でも東京でも演じられる噺.なじみの女郎から来た手紙を占ってもらう趣向.日本に八景と呼ばれるところは数々あるが,近江八景がそのうちもっとも有名.


 大あらすじ
 なじみの女郎から近江八景を織り込んだ手紙が来た.一見脈のありそうな内容なので,喜んでこれを八卦見に占ってもらうと,ゲンの悪い見たてばかり言われてがっかり.見料も置かずに立ち去るその訳は,八卦にゼゼはない.

 こぼれ話
 近江八景を読み込んだ手紙の文句は,「われ唐崎の袖の雨,濡れて乾かす比良の雪」と,あの「女郎の文」にしてはすごく文学的.近江八景に膳所(ぜぜ)が入っていないことが,サゲのベースにある.ゼゼという音が,お銭(ぜぜ)とかぶるので「近江八景」以外でも使われるシャレだ.
 近江八景という言葉は知っているが,肝心の八景全部を言えるかというと,ちょっとおぼつかない.でも,これが聞いてもピンとこないと話にならない.「掛取万歳」の言い訳でも,「蜀山人」の逸話でも出てくる,いうならば落語検定の基礎知識だ."比良の暮雪は雪降りの形"は,蟇の油でおなじみの文句.下の欄に近江八景など,いくつかの八景を調べてみた.

膳所城址
 ○○八景がどんなところに,いくつあるか研究している人もいるようだが,それくらい八景が氾濫している.では,近江八景がオリジナルかというとそうではなく,ルーツは中国の瀟湘八景だと言う.近江八景も神奈川の金沢八景も瀟湘八景と同んなじ古典的な8つの題材,落雁から始まって夕照までの自然の情景をあげている.石山寺に行くだけでなくそこで中秋の名月を愛で,比良の峰々に降る雪を眺めないと,本当の八景を見たことにならないらしい.それでは晴嵐とは何だろう.晴れた日の霞と強い山風の2つの意味が書いてあった.今の粟津は工場ばかりが並んでいて,どちらもあまり関係なくなっている.
 8つの自然現象に限ってしまうと,日本各地に当てはめにくし,どうしてもパターン化してしまう.しかし,落語の「八問答」ではないが,語呂のいい八景が捨てがたいということで,もう少し自在な八景が生まれた.滋賀県では,琵琶湖八景と称して琵琶湖のまわりをぐるっと囲む新八景が選ばれた.図の○がそのポイントだ.観光需要の掘り起こしをねらったのか,オリジナルの近江八景に含まれない湖の北部を手厚く選んだように見える.でも,今ひとつ浸透していないみたい.

三井寺の鐘
 もっと規模の大きいのは,1927年に新聞社が公募で決めた日本新八景(下記)で,北海道から九州までをうまいことカバーしている.総投票数が当時の日本の人口を超えていたというから,相当の盛り上がりを見せたのだろう.寺社がもともと対象外であり,雄大な風景が多く選ばれたのが特徴となっている.木曽川は河口部の輪中風景のことかもしれないが,日本三急流の一つということで,おそらく上流部の岩をかむ流れのことだろう.狩勝峠は札幌側から峠のトンネルを抜けたときに広がる雄大な十勝平野の眺望のこと.日本三大車窓の一つだったが,いまは新線をトンネルで抜けてしまうためこの眺望は見られなくなってしまった.
 8つではものたりないのか,最近は百選がはやりだ.1県あたり平均2ヶ所選べるあたり,いかにもお役所向けだ.とりわけ百名山,名水百選がメジャーだが,なぎさ,音風景,かおりなどさまざまな百選がある.においマニアが各地を訪れて,周りに気づかれないように鼻をヒクヒクさせるのは愉快だが,絶壁百選など作って探訪者の命を縮めては罪作りだ.


狩勝峠
 はなしの足あと
 瀟湘八景:平沙落雁,遠浦帰帆,山市晴嵐,江天暮雪,洞庭秋月,瀟湘夜雨,烟寺晩鐘,漁村夕照
 近江八景:堅田落雁,矢橋帰帆,粟津晴嵐,比良暮雪,石山秋月,唐崎夜雨,三井晩鐘,瀬田夕照
 金沢八景:平潟落雁,乙舳帰帆,洲崎晴嵐,内川暮雪,瀬戸秋月,小泉夜雨,称名晩鐘,野島夕照
 琵琶湖八景:海津大崎の岩礁,雄松崎の白汀,比叡の樹林,瀬田石山の清流,賤ケ岳の大観,竹生島の沈影,彦根の古城,安土八幡の水郷
 日本新八景:室戸岬,十和田湖,雲仙岳,木曽川,上高地,華厳滝,別府温泉,狩勝峠

 「女郎の文」:「女給の文」,「ラブレター」とも言う.女郎から来た手紙を友達に見せるが,誤字だらけで意味がわからない.コナだコナだ.アパンモカテキテネ.あなたはハタケのタニシだわ.てな具合.
 「八問答」:上方の噺.八のつく言葉は縁起がいい.八百万の神様,江戸は八百八町,石川五右衛門が山門に住んで合わせて八とか,いろいろ出てくる.

掲載 100423

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