HOME >> 旅のはなし >> prev 王子の幇間 next
王子の幇間   
東都のれん会 −おうじのたいこ−

 東京種の古典落語.出入り先のみんなに煙たがれている幇間が旦那の留守宅に上がりこみ,やり込められる噺.明治に活躍した三遊亭圓遊(3)が演じると,得意の能弁で,旦那に東京中を連れ回されてくたびれ果てるくだりがつく.この噺を練り込んだ文楽(8)はその部分をカットしている.これを欠くとなぜ「王子の幇間」という題なのかわからない.

 大あらすじ
 旦那の留守宅に上がりこんだ幇間.店の者が忙しいのに,旦那の口車に乗って東京中を歩き回った話などを,好き放題ならべて,結局鳶頭にやり込められる.

 こぼれ話
 演じる噺の数を20席あまりに絞り込み,完璧に噺を練り上げたことで有名な八代目桂文楽がこの噺をやっていた.それでは,テーマといっては大げさだが,「王子の幇間」は何を聞かせどころとする噺なのだろう.文楽は商家のみんなに嫌われながらも何とか取り入ろうとする幇間のしたたかさと悲哀を描いている.
 私が一番楽しみだったフレーズは,出入りの鳶頭の悪口をならべていると,隠れて聞いていた当の鳶頭が現れ,幇間を締め上げる場面."鳶頭が三味線を弾いたのは女郎屋の二階じゃぁ,ないっ!""じゃあどこだ!""区役所〜".「明烏」の"そうともぉ"とか,「酢豆腐の」"ありぃますっ"のようなフレーズ,最高である.もちろん,これがこの「王子の幇間」の眼目ではないのだが.圓遊がメインとした,食事をおごるという口車にのって東京中をぐるぐると引っ張り回される能弁の部分を,文楽は完全に切り捨ててしまっている.

区役所〜
 鼻の圓遊こと3代目(初代とも)三遊亭圓遊の口調はどんなだろうと思って,探してみたら「太鼓の当込」と題するSP盤が日本コロムビアからCDになって発売されていた.もしかしたら「王子の幇間」かと思って引っ張り出してみた.早速聴いてみよう.
 この「太鼓の当込」,アメリカコロムビア盤の吹き込みで,録音時間はわずか2分40秒.すごいノイズの中,低い調子で噺が始まった.何を言っているのか聞き取りづらい.旦那の相手を中座させてくれと頼んでいるので,「つるつる」ではないだろうか.鼻歌を歌いながら,電車の線路を男帯と間違えるようなギャグを並べているうちに噺が終わってしまった.「王子の幇間」ではなかったばかりでなく,当代随一の人気を誇った鼻の圓遊の藝の真価を,この雑音だらけの録音で判定しては可哀想だ.

三遊亭圓遊(3)墓
 東都のれん会という団体がある.「三代,100年,同業で継続し,現在も盛業」という厳しい条件をクリアした江戸東京の店だけが会員になれるという.圓遊の描く幇間は,両国から浅草,千住,向島,下谷,湯島,本郷と来て王子と回っている.その間にいくつもの名店の前を素通りしている.東都のれん会の会員も4軒顔を出していた.その他にも,落語でもおなじみの老舗がずいぶんと登場する.
 坊主しゃも:しゃも料理.両国.「船徳」で船頭が暴れた
 亀清:料亭.柳橋.横綱審議会の会合に利用される
 駒形どぜう:どじょう.駒形.どぜうと書いたのはここが始まり
 尾張屋:そば.浅草.大ぶりの海老天もおいしい
 一直:料亭.浅草寺の裏
 草津亭:浅草."田んぼの"と名がつく料亭
 重箱:鰻.山谷から赤坂に移転した高級店
 言問団粉:向島.三色のお団子
 長命寺の桜餅:向島.3枚の桜の葉に包まれている桜餅
 奴うなぎ:鰻.浅草.漱石の作品にも出てくる
 蓮玉庵:そば.池之端.こちらは鴎外に出てくる
 守田宝丹:薬.池之端.気付けに「なめる」のはこの薬
 扇屋:料亭.「王子の狐」の玉子焼き


言問団子
 はなしの足あと
 道中付け:両国→大中→坊頭反毛鶏→花屋敷の常盤家→横山町の尾張屋→亀清→湊屋→柳橋→柳香亭→川長→代地の万里軒→茅町の鹿の子→蔵前通り→宇治里→三好町→富士山の牛→川升→駒形の鰌→材木町の万千→材木町の万千→総菜の出店→松田→浅草→尾張屋→万梅→一直→芝居町の万金→仁王→観音さま→人造の富士山→奥山の釣橋→田圃の幸龍寺→温泉→湯滝→大金→金田の反毛鶏→田圃の牛→土手→大門→鈴木の反毛鶏→浜田の天麩羅→吉原→田中→山谷→八百善→小塚原の重箱→千住→尾彦→橋場→奥の植半→柏屋→吾妻屋→八百松→木母寺→三遊塚→柴又の帝釈さま→堀切→有馬の温泉→言問団粉→長命寺の桜餅→枕橋の八百松→吾妻橋→伊豆熊→並木→田原町→奴→門跡→菊屋橋→今金→高橋→梅堀の鰌→広徳寺→弘法さまのお灸→上野の公園地→上野の動物園→美術館→大仏→山王台の八百善→池の端→清凌亭→無極→蓬莱家→松源→揚出し→鶏八十→雁鍋→岡村→伊予紋→中文の鰻→蓮玉の蕎麦→守田の宝丹→切通→湯島天神→魚十→魚長→虎屋の饅頭→加賀さまの病院→松吉→王子→庚申塚の団粉→海老屋→扇屋→王子の権現さま

 「つるつる」:岡惚れした芸者の小梅に思いを告白したところ,何とOK.その晩,部屋に通う約束をしたが,意地悪の旦那に連れ出されて痛飲.寝過ごしたのも知らず,はずしたふんどしにつかまり二階からつるつると師匠の朝餉の膳の上へ降りていく.井戸替えの夢をみました,がサゲ.

掲載 110111

HOME >> 旅のはなし >> prev 王子の幇間 next