HOME >> 旅のはなし >> prev 黄金餅 next
黄金餅   
ずいぶんみんなくたびれた −こがねもち−

 三遊亭圓朝作.圓朝全集に載っている内容は,今の演出とはかなり違っている.なんと言っても,古今亭志ん生(5)の「黄金餅」.これぞ落語だ!と腰を抜かすほどの衝撃だった.道中付けは,下谷から麻布までを細かく言い立てる.そう,演者がくたびれるほど.

 大あらすじ
 金に気が残って死にきれない願人坊主の西念,餅に金を詰めて丸飲みし絶命.それをのぞき見していた隣家の金兵衛,焼き場の骨あげでその金を手に入れ餅屋をはじめる.

 こぼれ話
 身寄りのない願人坊主,西念が死んでも離せない有り金を餅に入れては丸飲みし,ついに絶命.それを見ていた金山寺屋の金兵衛,何とかその金を奪ってでも貧乏から抜け出したい.西念の死骸を菜漬けの樽に入れ,提灯をぶら下げた長屋の連中が差しにないで麻布の寺まで運ぶ.飲んだくれ坊主の引導を受け,焼き場の切手をもらうと,そこからは,連尺に棺桶をくくりつけ,金山寺屋の金兵衛がひとりで焼き場へかついでいく.穏亡をおどして死骸を焼かせ,骨あげの時に骨を突き崩して金を一人占めし,目黒に餅屋を開くという黄金餅の由来の一席.
 圓朝が作ったとは思えない凄惨な噺ですが,志ん生が演じると凄いだけでなく面白い.太った人間が先に通って生け垣の穴を大きくすれば,後の人が通るのに楽だ.勝手なようだが合理的です.
 道中付けといえば「黄金餅」を思い浮かべるほど,言い立てがしっくり来る噺です.志ん生の道中付けは,西念の長屋がある下谷の山崎町を出発し,麻布絶口釜無村の木蓮寺まで40ヶ所あまりの地名がテンポよく並べられます.全部の地名に馴染みがなくても,下谷,上野広小路,日本橋,新橋,麻布あたりはよくわかります.江戸の風を自分で感じていた志ん生が話すから,とりわけ説得力があるのでしょう.道中付けは,分かる地名が出てこなければ,聞いていて辛いだけです.だから,江戸切絵図を首っ引きで調べて,たくさんの地名を並べて演じればいいってものではないはずです.もしかしたら,俺は全部知っているぞとばかり,いちいちうなずくお客さんもいるかもしれません.ちょっと嫌みですね.

日本橋
 下谷の山崎町(台東区)は,明治になって万年町と名を変えましたが,いずれにせよ江戸指折りの貧民窟でした.絶口(絶江)は港区の曹渓寺のこと.赤穂義士の寺坂吉右衛門の墓があります.下谷から麻布までは11kmほどの距離なので,3〜4時間かけて歩けば,西念の葬礼と同じルートをたどれるでしょう.寺の前は絶江児童公園になっているので,ここで一休み.
 焼き場は,さらに4kmほど南の桐ヶ谷(品川区西五反田5)にあります.明治の演出では,もう一度焼き場までの道中付けが出てきますが,道中付けを2度繰り返すのは面白みに欠けますね.今度は歩かずに電車を使った方が無難でしょう.地下鉄南北線は東急目蒲線に直接乗り入れているので,麻布十番駅から不動前駅まで一気に行けます.桐ヶ谷の焼き場は現役の斎場です.私も何回か葬儀に参列したことがあります.以前には,焼き場特有の金網の付いた煙突が建っていましたが,今は見違えるような外観になっています.

絶江 曹渓寺
 ところで,葬列が出発した時刻を午後7時とすると,寺に着くのは10時ごろになるでしょう.まだ,坊さんが酒盛をしていていい時間です.これから小一時間で葬儀が終わり,金兵衛が焼き場に着くともう12時を回っているでしょう.こんな夜中に,まだ火を落としていないとは,働き者の穏亡です.「らくだ」の死骸が担ぎ込まれるのも夜分だから,焼き場は終夜働いていたのでしょうか.これから,金兵衛の注文通り腹を生焼けにしようと苦心して薪をくべていたら,往復5時間くらいかけて新橋の夜明かしでいっぱいやって,夜明け間際に戻ってくる時間があったのかもしれません.それよりも,金を横取りしないか,そばで見張っていたくなるのが人情ではないでしょうか.
 それにしても江戸の人間は実に健脚ですね.私などは,夜中に下谷から麻布まで歩いただけで,本当にくたびれ果ててしまいました.これが徹夜で歩いた最初の経験でした.


桐ヶ谷斎場
 はなしの足あと
 道中付け1:下谷の山崎町→上野の山下→三枚橋→広小路→御成街道→五軒町→堀さま→鳥居さま→筋違御門→大通り→神田の須田町→新石町→鍛治町→今川橋→本白銀町→石町→本町→室町→日本橋→通四丁目→中橋→南伝馬町→京橋→新橋→土橋→新し橋→愛宕下→天徳寺→神谷町→飯倉六丁目→飯倉片町→おかめ団子→麻布の永坂→十番→大黒坂→麻布絶口釜無村の木蓮寺 (古今亭志ん生(5)による)

 道中付け2:相模殿橋→日切地蔵→大久保彦左衛門様の墓地→白金の清正公様→瑞聖寺→桐ヶ谷の焼場 (橘家圓蔵(4)による)

掲載 090925

HOME >> 旅のはなし >> prev 黄金餅 next