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五目講釈   
古典文学特論 −ごもくこうしゃく−

 上方では「居候講釈」の演題が使われる.筋だては特にない.いかに鮮やかに講釈の場面を転換するかが演じどころで,聴きどころでもある.講談,芝居などの予備知識が必要なはずだが,雰囲気でも十分楽しめる.


 大あらすじ
 大家の世話で,居候の若旦那が趣味の素人講釈を読む.ところがそれが,いろいろな講釈の場面がつぎはぎになっている五目講釈.うまく調合するはず,生薬屋の若旦那.

 こぼれ話
 今日の単元は,20世紀に流行した落語と講談という芸能について.中には知っている人もいるかと思うが,落語は1人で行う滑稽な語り芸のことだね.和服を着て座ったまま演じるのが特徴だ.講談とは,謎かけや大喜利などとならんで落語家が習得すべきパフォーマンスの1つで,歴史的な事実,これを実録と呼ぶんだけれど,実録を朗々とした口調で語るもの.こちらはハリセンで机を叩いて調子をとるのが特徴だ.
 では,テキストを開いて.
 ここにあるのは,代表的な講談の例だ.より多くの内容を,七五調と言われる美文で読み上げることが最上とされる.難解なところには注がふってあるので,あとで参照しておくように.それでは,音読しながら鑑賞してみよう.
 その時、大石内蔵助山鹿流の陣太鼓1)の音を止め、吉良上野介の門外に突っ立ち上がり、我々は諸国勧進のため罷り通る、関門開いてお通しあれと大音声にて呼ばわったり、この時加賀国住人富樫左衛門2)関門をサッと押し開けば、真っ先に進んだる武蔵坊弁慶2)、おのれは売僧天一坊3)よな、大岡越前守3)御佩刀の柄に手をかけたり、刀は名に負う青江下坂4)、アッと言って倒れたる赤間源左衛門5)、首かき切らんと、お顔をよく見奉れば、ボウボウ眉に薄化粧6)、この君一人助けたとて、ひとまずここを落ち給い6)、緑7)もともに取りすがる、おいたわしや今若乙若8)、顔を見つめてこれ久松9)よ、今政岡の申すこと10)ようお聞き遊ばせや、われは元の人間ならで、信田の森11)に住まいたる千年近き雌狐牡狐、初音の鼓11)尋ねんとはるばる来たる紀伊の国、今道心は12)おわさずやと、すごすご帰る暗まぎれ、慮外無礼な雲助ども13)、面に受けたる看板の傷14)がもっけの幸いに、水に入ろうが火に入ろうが、重ねてお尋ねご無用と五右衛門ザンブと15)飛び込んだり、この時現れたるは桓武天皇九代の後裔平親王将門16)が三男なる新中納言知盛の亡霊17)、恨み重なる田宮伊右衛門18)ともに奈落へ連れゆかんと木幡小平次19)の怨霊を待ちもうけたる源三位頼政20)、二ツ玉の強薬21)切って放てば過たず、継信殿の胸板22)にハッシと立って真っ逆さまに、落ち行く先は九州相良23)、村の小名をば金置村24)、鈴木主水という侍は25)、女房持ちにて二人の子供、姉が宮城野妹が信夫26)、仇工藤左衛門祐経27)を討たんと富士の狩屋へ忍び入り、大雪卍巴と降りしきるその中に、御難儀遊ばす最明寺入道時頼28)山本勘助29)を供に連れ、佐野源左衛門常世28)が庵に一泊なし、小野小町30)の妹妲妃のお百31)と小栗栖村32)において親子の対面より、三浦屋高尾33)天目山の討死34)、続いて吃又平35)が朝鮮へ参り虎狩り36)の、一席。
1)山鹿流の陣太鼓:忠臣蔵.吉良邸討ち入りの場面.
2)富樫・弁慶:「勧進帳」安宅の関.義経一行を迎える関守富樫.
3)天一坊・大岡越前守:徳川吉宗の御落胤を騙った怪僧.大岡越前に見抜かれる.
4)青江下坂:「伊勢音頭恋寝刃」.伊勢古市で福岡貢が次々と人を殺める.
5)赤間源左衛門:「切られ与三郎」.木更津の親分.
 

伝福岡貢墓
6)ボウボウ眉に薄化粧:「一谷嫩軍記」.熊谷に討たれた敦盛のこと.
7)緑:「明烏夢泡雪」,浦里の禿.雪の折檻場.
8)今若乙若:義朝の妻,常磐御前の三人の息子,今若乙若牛若.操を捨てて操を立てるの名文句.
9)これ久松:「新版歌祭文」,お染久松野崎の別れ.
10)政岡:「伽羅先代萩」飯炊き.乳母政岡が千松に言いきかせる場面.
11)信田の森・初音の鼓:「義経千本桜」.狐が保名となり,子までもうける.落語「天神山」.
12)今道心は:刈萱道心石堂丸.高野山で親子の対面を果たせず引き返す.
 

平敦盛墓
13)雲助ども:「鈴ヶ森」.幡随院長兵衛と白井権八の出会いを思わせる.
14)看板の傷:「与話情浮名横櫛」.切られ与三郎が受けた顔の傷.
15)五右衛門ザンブと:せがれ五郎市を抱え,煮えたぎる油に飛び込む石川五右衛門.
16)平親王将門:将門の乱は相馬郡を拠点.国王神社が残る.落語「追い炊き」.
17)平知盛の亡霊:知盛は桓武天皇九代の後裔.壇の浦で入水.大物の浦で義経一行の船を祈り沈めようとする.落語「遊山船」.
18)田宮伊右衛門:「東海道四谷怪談」.穏亡堀の場.落語「足上がり」.
19)木幡小平治:下っ端の役者,木幡小平治が殺され,幽霊となって現れる.
20)源三位頼政:鵺退治.清涼殿に現れた鵺に矢を射かける.
 

切られ与三墓
21)二つ玉の強薬:「忠臣蔵」五段目,猪に向けて勘平が撃った銃.
22)継信殿の胸板:屋島の戦いで,義経をかばって佐藤継信は戦死.詳しくは落語「継信」.
23)落ち行く先は九州相良:「伊賀越道中双六」,沼津の段.
24)金置村:不詳.
25)鈴木主水という侍は:新宿の飯盛女,白糸と鈴木主水との心中をうたう瞽女唄.「木乃伊取り」にも出てくる.
26)宮城野信夫:由井正雪の乱を題材にした「碁白石太平記」,宮城野は吉原の花魁.
27)工藤祐経:曾我兄弟の仇討.富士の巻狩りに乗じて本懐を遂げる.
 

工藤祐経墓
28)佐野源左衛門:「鉢の木」.雪の日に盆栽を火にくべて旅僧の最明寺入道時頼をもてなした鎌倉武士.
29)山本勘助:武田信玄の家臣.軍師.キツツキ戦法で有名.
30)小野小町:美人の代表.最期は老残の姿.「卒塔婆小町」「草紙洗い小町」など七小町の演目.
31)妲妃のお百:毒婦.秋田お家騒動に加担.妲妃は殷王をたぶらかした悪婦.
32)小栗栖:本能寺の変に敗れた明智光秀の最期地.明智薮の碑がある.
33)高尾:吉原の太夫.仙台候に寵愛を受けたが,最期は三つ又でつるし切り.
34)天目山:武田勝頼ら,天目山の戦いで滅亡.
35)吃又平:「傾城反魂香」に出てくる浮世絵師.浪曲「恋の大津絵」.
36)虎狩り:加藤清正,朝鮮出兵での虎退治の故事.「虎狩」という落語もある.
 

仙台高尾墓
 はなしの足あと
 五目講釈:本所松坂町→加賀安宅の関→信田の森→紀伊国高野山→九州相良→富士の裾野→下野の国那須原→小栗栖村→朝鮮

掲載 110416/最終更新 150801

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