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円タク
 ごもっとも −えんたく−

 新作.一円で市内一円を走ったという洒落みたいなタクシー.
 舞踊家に転向した上方の桂小春団治(1)が売り物にしていたが,東京でも別の演出の速記がある.
 大あらすじ
 (大阪版)深夜,客待ちする円タクにやってくるのは,次から次とへんな客ばかり.
 (東京版)銀座から向島までボロの円タクに乗ったが,牛込に来てしまう.客自ら向島への経路を指示する.

 こぼれ話
 2つの噺に関連は何もない.円タクを知る人もいなくなった今,どちらの噺も演られないだろう.筋立てを詳しく書いてみる.
 大阪の噺は「住吉駕籠」と同じくスカタンの助手が登場する.最初に引っ張ってきた客は女性の相乗り.鼻の下を伸ばして請け負うと,市内をぐるぐると回って50銭.運転手にカスを喰う.
 2人目は,自殺志願者らしく,築港の桟橋だの長柄墓地だのと,寂しい場所ばかり行きたがる.というので1銭にもならず.
 3組目のアベックは住吉まで言い値で乗る上客.ところが車内で痴話喧嘩が始まり,無賃でいいからと途中で降りてもらう.実はそれがタダ乗りしようという客の作戦だった.

阿倍野墓地
 東京の方は,銀座から向島の先まで半タクの50銭で乗ったが,車がボロボロで話にならない.この部分をふくらませたのが,三遊亭円歌(2)が得意にしていた「ボロタク」だ.さて,ボロ車の方は,向島と言ったのに牛込の矢来に来てしまった.ここから先が,学があって口うるさい三遊亭金馬(3)の真骨頂だ.その口調をそのまま書き写す.
 「しようがねえな―今度はおれのいう通りに行くんだぜ、いいか。こゝを真っ直ぐに行くと橋がある、それが江戸川橋だ」(中略)
 「橋の手前を右へ曲ると、江戸川べりだ」(中略)
 「突き当ってすぐ左へ上がると安藤坂だ、上がり切ると正面が伝通院だ」(中略)
 「右へ曲って富坂を下りて、春日町、向富坂を上って真砂町、本郷三丁目から切通し、上野広小路を越して厩橋、左へ折れて駒形よ、吾妻橋を渡って、左へ曲って、サッポロビールを右に見て枕橋を渡れば、目をつぶっていても向島だ」
 「ヘエー、それほど知っているなら、あなた運転して下さい」
 今でもその通りに行ける.実にごもっとも.


本当はアサヒビール
 はなしの足あと
 道中付け1:客待ち→恵美須町→上六→守町→福島→九条.新町→松島→飛田.阿部野→長柄の葬儀所→城東練兵場→築港の桟橋.住吉 (桂小春団治(1)による.昭和4年)

 道中付け2:銀座→牛込の矢来→江戸川橋→(護国寺)→江戸川→(大曲)→安藤坂→伝通院→富坂→春日町→向富坂→真砂町→本郷三丁目→切通し→上野広小路→厩橋→駒形→吾妻橋→サッポロビール→枕橋→向島 (三遊亭金馬(3)による.昭和8年))

掲載 110308

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