HOME >> 旅のはなし >> prev 不精の代参 next
不精の代参
落語の物理学 −ぶしょうのだいさん−

 大阪種の古典落語.東京では演じられない.米朝はこの落語のサゲに禅味を感じた人がいると書いている.「不精の代参」と「池田の猪買い」で歩いた経路をまとめて図にした.

 大あらすじ
 能勢の妙見への代参を頼まれた不精者,尻を突いてもらってスタートする.そのうち,首にぶら下げた握り飯の包みが傾いてきてじゃまでしょうがない.面倒なので,向こうから口を開けて歩いてくる男に食わせようとする.しかし,男は腹が減っていたのではなく,傾いた笠の紐をあごで止めていた.

 こぼれ話
 次の問題を解け。(20点)

 大阪丼池(標高2m)に住む甚兵衛(体重50kg)が、自分の代わりに喜六(体重70kg)を能勢の妙見(標高654m)に代参させたい。喜六は不精者のため、自ら動き出すことはない。
 [1] 甚兵衛が喜六の尻を突いて能勢の妙見で停止させるには、どのような条件で突き出せばよいか。
 [2] 能勢の妙見へ行くのに、南の和歌山へ向かってはいけないと甚兵衛は喜六をたしなめた。この理由を述べよ。
 ただし,丼池と能勢の妙見との間は,摩擦のないなめらかな道になっている.また、そのルートは落語「池田の猪買い」に従うものとする。

大阪丼池
 へえ〜.受験にまで落語が出るとは,さすが関西やな.オレ,落語得意やねん.時代遅れとか何とか回りの奴は言いよるが,どや,落語は試験にも出んねんで.
 ええーっと.「池田の猪買い」のルートか,何やったかいな.そうそう,丼池筋を北へ北へ,北浜にデボチンぶつける.確か,産婆さんが出てきたっけ.船で渡るか泳いで渡るか,それでは事が大胆な,というくらいやから,川を渡ったんやな.あんじょう逆らえ!ゆうから渡らんのかな.服部の天神さんを尻目に殺して池田に着くわ.山猟師の六太夫さんといっても,ビチョビチョな女子や.あれ崇徳院さんと混じってもうた.えー……と能勢に至る,っと.これでルートは終まいや.5点はもらえるやろ.次,どのような条件言われてもわからんわ.まあええわ,こんな変わった問題だす学校やから,おもろいこと書いといたら点くれるやろ.
 右の尻はデンボ,左の尻はヤイト,真ん中は痔の問題があるため,手のひら全体を使って,そっとジェントルマンタッチで押し出す.なお,能勢の妙見方向へ向けて突くのは素人で,正しくは正確に北浜に向けること.


十三大橋
 落語だなんてふざけた問題だな.何だって,摩擦のない道じゃあ滑っちゃって歩けないじゃないか.なるほど,ボールのような剛体を仮定すればいいのか.[2]は,いったいどこが物理の問題なんだよ.えーと……
 [1] 路面に摩擦がないため妙見山頂までのルートは解に影響しない.したがって,「池田の猪買い」を詳述する必要はない.はじめ喜六は静止しているため,妙見山までに喜六が得る位置エネルギーが,甚兵衛の与える運動エネルギーに等しい.したがって,喜六の初速を V とすると,
  M(喜六) x g x {H(妙見山)-H(丼池)}= 1/2 x M(喜六) x V 2
  V = {2x9.8x(654-2)}1/2 = 113 (m/s)
 答.甚兵衛は,喜六に初速113m/sを与えるよう,能勢に向かう道なりに強く押し出す.
 [2] 答.能勢の妙見は丼池の北にあたり,南に位置する和歌山とは方向が違うから.

− うーん.2番はひねりがないのぉ.ペケッ! お次の答案は と,


妙見さんへ一直線
 [2] 答.和歌山でなめらかにUターンし,能勢へ向かうことができれば南へ向かっても差し支えない.

− ほほぅ,喜六をひねらせたが,これもペケッ.差し支えあるんじゃ.

 [2] 答.喜六を南に初速113m/sで突き出すと,反作用で甚兵衛さんは北へ動き出してしまう.その初速は158m/sとなり,甚兵衛さん自身が能勢の妙見に行ってしまい,代参の意味がなくなるため.しかも,山頂で甚兵衛さんは止まることができず,妙見さんの賽銭箱に時速400kmで衝突し,ひょっとして甚兵衛さんの命にかかわる.

− そうそう.こりゃ代参でなく大惨事,ってダジャレなんじゃよ.


妙見さんの賽銭箱
 はなしの足あと
 道中付け1:丼池→岡町→能勢→能勢の妙見 (不精の代参.桂米朝(3)による)
 道中付け2:丼池筋→北浜→淀屋橋→大江橋→蜆橋→お初天神→十三の渡し→三国の渡し→服部天神→岡町→池田 (池田の猪買い.笑福亭松鶴(5)による)

掲載 110211/最終更新 150816

HOME >> 旅のはなし >> prev 不精の代参 next