花筺,4・5号(1889)掲載の「松と藤芸妓の替紋」休載記事を復刻
松と藤申解(もうしわけ)の口上
ヘイ御聞き五月蠅(うるさき)ハ恐れ入りまするが、一寸申し上げまする、別儀でも御座いません、松と藤芸妓替紋の掛(かか)り三遊亭圓朝ハ、即ち小生(わたくし)師匠ゆゑ、第四(し)席の分を早くして呉(くれ)ろとの御催促が、花がたみ社より櫛の歯を挽くが如くに御座りますれど、実ハ師匠圓朝事、先ごろ湯治かたがた信州路へ出掛けましたる所、其の先々にて止むを得ざる御招待に預り、彼処(かしこ)ハ断り悪(にく)い此処(ここ)も棄て置けぬの場合から、美濃路へ越え尾張路に移り、鰻登りとなり、何様(どう)やら彼様(かう)やら西京から大坂まで参(まへ)りました所で、松と藤の御催促きびしいに驚き、此の上出ついでだから抔(など)と独断(ひとりきは)めで、倫敦(ろんどん)巴里斯(ぱりす)新約紐(にふよるく)などと洒落付けられた日には大変と気が着きましたから、小生(わたくし)連中より両三名迎ひに出ましたれバ、直ぐに引張り戻ツて参(まへ)り、此の四席のから抜(ぬき)を埋めさせますから、帰宅の汽車の到着まで御叱りなく御待ち下さる様に申訳致せと、花がたみから突(つく)をくらハせられ、天窓(あたま)を掻々(かきかき)四号欠席の御謝罪(おわび)ことヘイお許しを願上升
(注記)
原文は旧漢字,旧仮名遣い,ルビつき,句読点なし
=原文からの変更点=
・旧漢字を新漢字に変更した.
・踊り字,合字については,"々"を除き,書き下した.
・ルビは括弧内に記した.大部分のルビは省略した.
・一部の送りがなをルビから追い出し,書き下した.また,一部の句読点を補った.これらの変更点については,文字色を灰色としている.